個人情報保護法違反とは?法律の概要と事例をわかりやすく解説
個人情報保護法が適用されたケースには、どのようなものがあるのかも知っておくと役立ちます。そこで今回は、個人情報保護法…[続きを読む]
従業員がメールを利用する際、注意していても誤送信をしてしまうことがありがちですが、この場合には企業にも責任が発生する可能性があります。
また、従業員のメール誤送信によって企業や取引先の重要な情報を漏えいされることもありますが、そうした場合、企業が損害を受けるので、どのような対処をとることができるのかも問題です。
さらに、従業員が企業の情報漏えいをする場合、同業他社に情報を漏らすなどの競合行為を行っていることがよくありますが、こうした場合に企業が従業員に対してどのような請求を行うことができるのかも押さえておく必要があります。
そこで今回は、従業員がメール誤送信をした場合をはじめとして、企業と従業員の関係で問題が起こった場合の対処方法を解説します。
目次
企業で働く従業員がメールを誤送信することは、珍しいことではありません。
このような場合、企業は個人情報保護法違反の責任を問われる可能性があります。
個人情報保護法では、個人情報を取り扱う業者に対し、適切に個人情報を取り扱う義務を課しています。
ここで保護の対象となる個人情報には、個人の氏名や住所、電話番号やメールアドレスなどが含まれるので、メールの誤送信によって相手にメールアドレスが開示されてしまった場合には、それだけで個人情報保護法違反になります。
個人情報保護法は、以前は保有情報が5,000人以下の規模の事業者には適用されませんでしたが、現在は改正が行われて保有情報が5,000人以下の事業者にも適用されるようになっています。
それでは、メール誤送信によって個人情報保護法に違反すると、どのような責任が発生するのでしょうか?
まず、個人情報保護法に違反すると、行政庁から勧告や命令を受けることがありますし、それらに従わない場合には、罰則が適用されるおそれもあります。
また、情報を漏えいしたことが明らかになると、被害者から、民事上の差し止め請求や損害賠償請求をされてしまうおそれもあります。
さらに、個人情報を漏えいした企業であることが明らかになると、社会における信用が低くなって企業活動を行いにくくなります。
このように、従業員のメール誤送信1つの問題で、企業が大きな不利益を受けるおそれがあるので、メールの取扱には充分注意する必要があります。
メールを宛先間違いなどが起きがちなので、送信前に確認するようメールソフトを設定する、メールは送信前に2重チェックをするなどの制度を作って、誤送信を確実に防ぐようにしましょう。
特に添付ミスなども起きますので、宛先があっていても、添付している内容にミスがないか、間違った資料を添付していないか?という確認が必要です。
大きな企業だと、そもそも添付ファイル自体を禁止している企業も珍しくありません。外部とのファイルのやり取りは、別途ファイル交換システムを使う、外部ファイルを送る人を制限しておくなどの対策が考えられます。
従業員がメール誤送信を行った場合、メール内に企業の重要な営業秘密が記載されていることがあります。こうした場合、その営業秘密が外部に漏えいしてしまうので、企業にとっては大変な不利益があります。
また、メール誤送信のケース以外でも、従業員や取締役などが故意に営業秘密を持ち出すこともあります。
この場合、企業はどのような対処方法をとることができるのでしょうか?
従業員などが営業秘密を漏えいした場合、企業は情報漏えい者に対して不正競争防止法という法律によって、さまざまな措置をとることができます。
不正競争防止法とは、企業間で競争を正当に行わせることによって、適切に取引活動が実現出来るようにすることを目的として定められた法律です。
まずは、差止請求により、その従業員に対し、営業秘密漏えい行為を辞めさせることができます(不正競争防止法3条1項)
また、廃棄除去請求も可能です(不正競争防止法3条2項)。これは、侵害したものを廃棄させたり、侵害をやめさせるために必要な行為を請求したりすることです。たとえば、データを取得された場合にその媒体を処分させることなどができます。
従業員に対して損害賠償請求をすることもできます(不正競争防止法4条)。
不正競争防止法にもとづいて損害賠償請求を行う場合、民法上の不法行為にもとづいて損害賠償請求する場合よりも立証などが簡単になっています。
さらに、営業秘密が漏えいされたことによって企業の信用が失われた場合には、信用回復に必要な措置を請求することも可能です(不正競争防止法14条)。たとえば、従業員に謝罪広告をさせることなどができるということです。
営業秘密の漏えいには罰則があるので、悪質な場合には刑事告訴をして罰則を適用してもらうことも可能です。この場合の罰則の内容は、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはその併科となります。
退職後の従業員や役員に対しても同じ責任追及をすることができます。
たとえば、従業員が営業秘密を漏えいして競業他社に移った場合などには、有効な手段となる可能性があります。
不正競争防止法が適用されるためには、その情報が「営業秘密」である必要がありますが、営業秘密とは具体的にどのような情報なのかが問題です。
不正競争防止法上における「営業秘密」については、以下の要件を備えたものであると考えられています。
不正競争防止法の適否が問題になるとき、上記の要件の中でも、「秘密管理性」が争われるケースが多いです。
秘密管理性の判断においては、企業がその情報の秘密を守るため、アクセス制限などの必要な管理を実施しているかどうかや、情報にアクセスした者に、その情報が秘密であるとわかり措置がとられているかどうかが重視されます。
そこで、企業内で重要な秘密を管理するときには、情報にアクセスできる人を限定したり、アクセスする際にパスワードなどを設定して、アクセスしたらそれが重要な情報であることが表示されるようなシステムを作っておく必要があります。
営業秘密以外の情報が漏えいされた場合には、不正競争防止法にもとづく請求をすることはできません。この場合、どのような請求をすることができるのでしょうか?
以下で順番に見てみましょう。
まず、従業員が在職中の場合には、従業員は企業に対して秘密保持義務を負っています。そこで、企業の情報を勝手に漏えいした場合、企業は従業員に対して損害賠償請求をすることができます。
また、就業規則がある場合、それにもとづいて従業員に対して解雇などの懲戒措置をとることも可能です。
従業員の退職後であっても、従業員には信義則上一定の範囲の秘密保持義務を負い続けると考えられるので、退職後の従業員が企業の重要な情報を漏えいした場合には、従業員に対して損害賠償請求を行うことができます。
また、退職金規程内に定めを設けている場合には、退職金の全部や一部を不支給にしたり返金を求めたりすることも可能です。
従業員がメール送信などによって情報漏えいする場合、その従業員が競合会社に情報を持ち込んでいるケースもあります。この場合には、従業員が競合行為を行っていることになり、単なる秘密漏えいとは別の法的な問題が発生します。そこで、以下では従業員が競合行為を行った場合の企業の対処方法をご説明します。
従業員は、企業との労働契約の一内容として、競業避止義務を負っています。実際に雇用契約によって競業避止義務を定めることもありますし、就業規則などで定めている事例もあります。
そこで、従業員が在職中に競業行為を行った場合、企業はその従業員に対して、競合行為の差し止め請求を行うことができますし、競合行為によって企業が損害を受けた場合には、損害賠償請求を行うことができます。
さらに、この場合でも就業規則において、競合行為があった場合の懲戒制度を定めていれば、その内容にもとづいて従業員を懲戒解雇などの懲戒手続きにかけることができます。
従業員が退職する場合には、従業員による行為の重大性によって、退職金を一部または全部不支給にすることも可能です。
なお、退職金を全部不支給にするためには、従業員の背信行為が、その従業員の永年の功労をすべて無に帰してしまう程度に及んでいる必要があり、単に退職金規程において「競合行為をした場合には退職金を不支給にする」と定めているだけでは、必ずしも完全不支給は認められません。
従業員が退職している場合には、その従業員には競業避止義務がありません。
ただ、労働契約やその後の特約などによって、退職後の競業避止義務を定めている場合には、それにもとづいて元従業員に対して損害賠償請求などをすることが可能ですし、退職金の一部や全部の返還請求を行うことも可能です。
さらに、このような特約がないケースであっても、従業員による競業行為が悪質なケースでは、やはり企業は従業員に対して損害賠償請求をすることができる可能性があります。
以上のように、従業員によって情報漏えいされた場合には、企業と従業員との間でいろいろな問題が発生します。
また、情報漏えいが行われると企業にとっては社会的信用低下をはじめとした大きな不利益があるので、従業員に対して各種の請求をする必要があります。
そこで、企業内における情報管理は徹底的に厳格に行うことが重要です。
メールの送信方法だけではなく、企業内の重要情報にアクセスできる者を制限したりパスワードを設定したり、重要な情報を外部と連結されているサーバー上におかないなどの工夫をしたりすることも可能です。
会社のパソコンやデータは自宅に持ち帰ることができないことにして、従業員による情報漏えいを防ぐことも大切です。
万一、競合行為や情報漏えいが行われた場合への対策として、就業規則に情報漏えいを禁じることや競合行為を禁ずることなどを明らかにし、違反があった場合には懲戒解雇ができるように定めておきましょう。退職金規程においても、情報漏えいや競合行為などの不正行為があると、退職金の全部や一部を不支給としたり、支払った退職金の返還を求めたりすることができることなどを明確にしておく必要があります。
さらに、従業員や取締役が退職する際には、退職後も一定の期間一定範囲で競業避止義務を負うことと、競業避止義務に違反した場合の責任(損害賠償責任、退職金返還義務)などについて定めておくことをおすすめします。
今回の記事を参考にして、企業内の情報管理を徹底して、安全に企業運営を行いましょう。
今回は、従業員がメール誤送信をした場合の企業の責任や従業員に対する責任追及について解説しました。
メール誤送信があった場合、そのメール内に個人情報が記載されていたら、企業は個人情報保護法違反となって、被害者に対して損害賠償が必要になったり罰則が適用されたりするおそれがありますし、企業の社会的信用も低下してしまいます。
また、従業員が営業秘密を漏えいした場合には、従業員に対して不正競争防止法上の責任追及をすることが可能で、差し止めや信用回復措置、損害賠償請求などをすることができますし、対象の従業員を解雇などの懲戒手続きにかけることも可能です。
従業員が競合行為を行った場合には、対象の従業員に対して損害賠償請求などができます。
従業員による情報漏えいを防止するためには、企業内での情報管理体制をととのえることと、就業規則や退職金規程などの整備をして、労務管理を適切に行うことが重要です。
今回の記事内容を、今後の経営の参考にしていただけると幸いです。