送信防止措置依頼書の書き方【入門編】
プロバイダ責任制限法では、被害者に「送信防止措置請求権」「発信者情報開示請求権」を認めています。誹謗中傷の該当記事を…[続きを読む]
自分の逮捕歴がGoogleなどの検索エンジンやネットニュースに掲載されてしまうと、多くの場合削除されることなく延々と残ってしまいます。
逮捕報道が実名で掲載されているような状態が続くと、その記事を見る人が増えるだけではなく、記事内容を転載する人も出てくるので情報がどんどん拡散してしまうという問題もあります。
そこで今回は、逮捕歴や前科などの過去の記事を削除できる場合や削除依頼方法、弁護士への相談について解説していきます。
目次
逮捕歴の削除方法を知る前に、まず「逮捕歴」「前歴」「前科」の違いを知っておきましょう。
簡単に解説すると、下記のとおりです。
つまり、実際に犯罪をしておらず、冤罪や誤認逮捕だった場合(不起訴だった場合)にも「逮捕歴」を含む「前歴」がついてしまうことになります。
ちなみに「不起訴」とは、検察官が起訴しないことをいいます。
不起訴にあたるのは、例えば以下のような場合です。
前歴の情報は検察庁で管理され、前科の情報は検察庁及び市区町村で管理されていますので、それらがインターネット上に流出することはありません。
問題は、マスコミによる実名犯罪報道と、これを後追いするネット上の書き込みです。これらの記載がネット上に残り、拡散することで、逮捕歴、前歴、前科に相応する情報が公開され続けてしまうわけです。
こにより、次のような各種のデメリットが生じます。
就職活動や転職活動の際に採用担当がGoogleで名前を検索して逮捕歴や前科を知り、それを理由に採用してもらえないケースがあります。どのような者を採用するかは、その会社の自由ですから、逮捕歴や前科を理由に採用を拒否することも可能です。
また、現在会社に勤務している場合にも、会社に秘匿していた逮捕歴や前科が判明すると、解雇されたり左遷されたりなどの不利益な事実上の処分を受ける可能性があります。
入社段階で、これらの事実の有無を特に問われていない場合は、後に明らかになっても、法的に有効な解雇や懲戒処分は出来ません。
しかし、無効な解雇・処分であっても、その法的有効性を争うのは、労働者にとっては非常に負担が重いものです。
隠していた逮捕歴を交際相手が知った場合、交際をやめてしまう人物もいるでしょう。縁談も同じです。たとえ、本人が気にしない場合でも、両親や親戚が拒絶反応を起こすこともあります。
また、婚姻前の逮捕歴や前科を秘匿して婚姻したというケースでは、婚姻後に事実が発覚すれば、婚姻を継続しがたい重大な事由として、離婚理由と認められる恐れがあります。
賃貸住宅を借りる際にも、逮捕歴や前科が問題になる場合があります。
大家によっては、契約希望者の名前でネット検索し、逮捕歴などが判明すると、入居を拒否する場合があります。
逮捕歴や前科が拡散されると、自分だけでなく家族に影響が出ることもあります。
子供が学校でいじめられたり近所の人に噂されたりと、肩身の狭い思いをさせて迷惑をかけることになってしまいます。
最近ではネット上で住所を特定して匿名で嫌がらせをしてくるケースも増えており、いたずら電話やFAXによる誹謗中傷など、不特定多数者からの悪質な行為でストレスが溜まることも考えられます。
上記のように、逮捕歴や前科がネット上で見られてしまうことによって様々な問題が起きます。
逮捕歴を削除するには、大きく分けて以下の2つの方法があります。
匿名掲示板やSNSなど、ネット上のサービスの多くには「問い合わせフォーム」や「通報機能」があります。
それらを使って運営側に削除依頼をすることで削除してもらえる可能性があります。
この方法は自分で簡単に削除申請ができるというメリットがありますが、最終的な判断は運営側がするため、必ずしも削除されるとは限らないことに注意しましょう。
また、任意削除を求める方法として、「送信防止措置請求」という手段もあります。
詳しくは以下のページをご覧ください。
任意で削除されなかった場合などには、法的に対処を行うことも必要です。
法的な対処というと、次のような方法があげられます。
・削除の仮処分を行う
・削除を求めて訴訟を行う
それぞれ裁判所に申し立て、仮処分命令や判決を下してもらうことで法的拘束力をもって記事の削除を行います。
ただ、上記の方法で削除を求めるにしても、該当するネットニュースやネット記事の削除を請求する正当な根拠が必要です。
逮捕歴の削除を求めるときに法的な根拠となるものはなんでしょうか。
裁判所によると、人には「前科等に関わる事実を公表されない法的利益」があると考えられています(最高裁平成6年2月8日判決・※1)。
※1、https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52442
逮捕歴や前科等に関わる事実を公表されない法的利益とは、いわゆる「プライバシー権」にもとづく権利です(最高裁昭和56年4月14日判決・※2)。
※2、https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=56331
日本では、憲法により個人情報といった私生活上の情報をみだりに公開されない権利(プライバシー権)が保障されていると考えられています。
逮捕歴などは特に個人にとって大きな影響を及ぼす重要なプライバシー情報であり、他人によって簡単に公開されていいものではありません。
そのため、ネット上に逮捕歴が掲載されていることは、基本的にプライバシー侵害にあたるといえます。
ただ、プライバシー侵害にあたるからといって直ちに記事の削除が認められるわけではありません。
というのも、ニュース記事の掲載などは同じく憲法で保障されている「表現の自由」に基づく行為によるものだからです。
また、逮捕の記事は公益性があり、国民が知りたいと思っている情報でもあります。
国民の「知る権利」からしても、逮捕歴の記事は削除すべきでないとされることがあります。
つまり、逮捕歴が掲載された人の「プライバシー権」と、記事作成側の「表現の自由」・国民の「知る権利」を秤にかけたときに、どちらが優先されるかを踏まえて削除が認められるかを考える必要があるのです。
では、最高裁ではどのような場合に逮捕歴の削除を認めているのでしょうか。
ネット上の逮捕歴・前科の掲載に関して、最高裁の判例(平成29年1月31日決定※)で採用された判断基準は以下の通りです。
※https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86482
当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。
簡単にいうと、逮捕歴をもつ本人の現在の生活状況や事件の性質、社会への影響、実名報道の必要性などを総合的に判断し、逮捕歴が公表されない利益(プライバシーの保護)の方が公表する利益(表現の自由・知る権利)を優越すると考えられるときには、記事の削除を求めることができるということです。
この事案は、児童買春によって逮捕された人の逮捕歴の削除を検索サイトに求めた事件でした。
本件では、児童買春という社会的に非難の強い事件であったことなどから削除は認められませんでした。
では、どのような場合にネットニュースなどの削除が認められるのでしょうか。
その判断基準を見てみましょう。
逮捕歴・前科情報の記事削除請求を認めるかどうかを判断する際、実務的に重視されるのは「時間の経過」です。
事件が起こった後、一定の時間が経過すれば世間の事件への関心は弱まり、実名報道の必要性が薄らぐので削除請求が認められやすくなります。
ただ、元々の事件の性質や軽重によってもさまざまなので、「何年経ったら確実に削除できる」という基準はありません。
「報道されている人(情報主体)の立場」も判断要素の1つになります。
国会議員など、公的な立場である人ほど社会の関心も高いので記事削除が認められにくくなります。
逆に、一般人であれば公益性も低いとして削除が認められやすくなるケースもあります。
逮捕歴の削除の「必要性」があるかどうかということも重要です。
逮捕歴や前科情報の記事が残っていても、何らの不都合が起こっていないような場合では早急に削除する必要性は認められないとして、記事削除請求が認められないことがあります。
一方、記事の掲載によって実際に被害を受けていれば認められる可能性が高くなるでしょう。
また、その人が刑の執行を終えてきちんと就職して社会復帰を目指している場合や、被害者と示談が成立しているような場合にも「更生の利益」があるとして認められやすくなります。
社会復帰を目指して就職活動をしているにもかかわらず、前科報道による影響で就職がうまくいかないようなケースでは、記事削除請求が認められる可能性が高いでしょう。
不起訴になった場合(逮捕歴)は犯罪の程度が軽く、社会への影響もほとんどないことから、比較的削除請求が認められやすいです。
また、犯罪そのものの軽重にもよりますが、逮捕・起訴されても執行猶予つきになった場合には、実刑になった場合よりも記事削除が認められやすいでしょう。
この場合には、執行猶予期間が経過していることが1つの目安になってきます。
同様に、実刑判決を受けた場合にも刑の執行を終えているかどうかが1つの基準になります。
逮捕歴の削除方法については先述しましたが、特に法的な対処を行うには専門的な知識や複雑な手続きを必要とします。
素人だと一人で対応するのは困難であるため、ネットに強い弁護士に依頼することをお勧めします。
弁護士に依頼することで、逮捕歴の削除はもちろん、場合によっては記事投稿者などへの損害賠償(慰謝料)請求を行うこともできます。
自分や家族が実名による逮捕歴の記事によって迷惑を受けている場合には、一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
なお、弁護士費用などは下記の記事が詳しいので併せてご参考下さい。
今回は、ネット上のニュース記事などで前科情報・逮捕歴といった情報が掲載されている場合の記事削除請求について解説しました。
逮捕歴や前科情報がネット上に残っていると、自分も身内も大きな被害を受けることがあります。
本人としても、自分の逮捕歴が晒されているのは気分がいいものではありませんよね。
完全に社会復帰するには、記事を消すことが不可欠です。
もし逮捕歴のネット記事に悩んでいるのであれば、無料相談を受け付けている法律事務所などに相談してみてください。