利用者も逮捕されてしまうの?漫画村事件とその問題点
2017年、社会問題として注目された「漫画村」。漫画を無断でアップロードする海賊版サイトは違法なのか、利用者も逮捕さ…[続きを読む]
2019年から違法ダウンロードの規制を強化する著作権法改正案が議論されてきたことをご存じでしょうか。
最初の改正案では、漫画なども違法ダウンロード禁止の対象にすると同時に、1コマでもNGという厳しい基準が設けられ、多くの批判がされました。
こうした批判を受け、見直した改正著作権法が2020年6月5日に成立しました。
今回は、この違法ダウンロードに対する著作権法改正案について、どのように決まったのかをご紹介します。
そもそも、なぜ違法ダウンロードの取り締まりを強化するような改正案が考えられるようになったのでしょうか。
それは、「海賊版サイト」が関係しています。
2018年から社会問題にもなった「漫画村事件」を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
海賊版サイトでは様々な漫画や小説が違法アップロードされており、運営者はサイトから広告収入を得ています。
しかし、本来利益を得るはずの著作権者(原作者など)には収益が入りません。
このような事態は漫画だけでなく、雑誌や写真集、ゲーム、論文などで同様の被害が生じています。
著作権者の収入の激減や、それに起因する文化の衰退といった懸念から、海賊版サイトへの取り締まりが強化されるようになったのです。
先述したように、一番初めに出された改正案は、個人ブログからのダウンロードやスマホでのスクリーンショットも規制される行為となり、漫画のうち1ページ1コマでも違法というかなり厳しい基準が設けられていました。
この厳しすぎる基準には「ネット利用や創作活動の萎縮を招く」「著作権者側の理解を得られていない」といった批判がされ、一回目の改正案は見送りとなっています。
しかし、検討会で現代に合わせた案になるよう改善を重ね、ついに先日成立しました。
以下では成立した改正著作権法について、どのように改正されたのかを詳しく解説していきます。
違法アップロード・ダウンロードに関する項目は、刑事罰が与えられるものや民事措置ができる場合など、様々な場合分けがされています。
刑事と民事に分けて見ていきましょう。
まずは違法アップロードとなる対象についてです。
従来は音楽と動画のみが対象となっていましたが、今回の改正案では「著作物全般」、つまり小説・写真・論文・絵画などあらゆる創作物が含まれることになります。
民事措置ができる対象 | 違法にアップロードされた著作物全般(複製) |
---|---|
刑事罰がある対象 | 違法にアップロードされた著作物全般のうち、正規版が有償で提供されているもの(複製) |
次に対象の範囲です。
画像をそのままダウンロード(保存)するだけでなく、スクリーンショットをして画面保存する行為も対象になります。
しかし、ダウンロードやスクショをしたとしても、場合によっては分量で適法となる可能性もあり、軽微なものは除外されています。
ただ、「具体的に何コマまでOKなの?」「軽微なものってどのくらい?」と疑問に感じる方もいらっしゃるでしょう。
この部分の判断基準は、違法ダウンロードした元の作品を軸に考えることになっています。
例えば、1コマ漫画のうちの1コマを違法ダウンロードしたとなると、「軽微なもの」とは言えず違法になります。
しかし、数十ページの漫画のうちの1~数コマであれば「軽微なもの」と言える可能性が高いでしょう。
このように、元の作品から考えてどの程度なら軽微とは言えないのか、常識的に考えて判断が行われるとされています。
また、検討を重ねた結果、国民の正当な情報収集の萎縮を防ぐために、違法ダウンロードであっても「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合」であれば対象外となることに決まりました。
この「特別な事情」は、①著作物としての保護の必要性の程度と、②ダウンロードの目的・必要性などの態様の相関関係によって判断されます(例えば、詐欺集団の作成した詐欺マニュアルを防犯目的でダウンロードする行為は適法という判断になります)。
違法ダウンロードによって罰せられるのは、そのコンテンツが違法にアップロードされたものであることを「知りながら」ダウンロードした場合のみです。
つまり、故意(わざと)の場合に限られ、過失(うっかり知らなかった)場合は除外されています。
民事・刑事共通 | 違法にアップロードされたものだと知りながらダウンロードした場合 | ×違法 |
---|---|---|
過失(重過失含む)、適法・違法の評価を誤った場合 | ◎適法 |
民事では一回の違法ダウンロードでも違法行為となる一方で、刑事の場合はこの違法ダウンロードが「継続的に又は反復して」数回行われている必要があります。
加えて、刑事の場合は著作権者自身から訴えなければいけません(親告罪)。
以上の要件を満たし、刑事罰を科された場合は、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、又はその併科がされます。
民事はそもそも著作権者自身が起こすものなので親告の有無を考える余地はありません。
原作を元に、ファンなどが新たに創作を行う「二次創作」も違法ダウンロードの対象となるのか、疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
今回の改正案における違法ダウンロードは、一定の条件のもとで二次創作も対象に含まれます。
二次創作・パロディについては、二次創作者が自らアップロードしたサイトからダウンロードするのであれば適法となります。
しかし、そこから更に第三者が違法アップロードしたものをダウンロードすることは、二次創作者の著作権を侵害することになるので違法です。
ただ、許諾のない二次創作自体が原則として違法であることに変わりはありません(多くは黙認されています)。
自分で作った二次創作でも、原作者に無断でサイトにアップロードした場合は著作権法28条で保障される「二次的著作物の利用に関する現著作者の権利」を侵害することになりますので注意しましょう。
私的使用のためであっても、違法にアップロードされたものをダウンロードすることは許されません。
勿論、適法にアップロードされたものであれば、私的使用の範囲で利用することは可能です。
リーチサイトとは、それ自身には違法アップロードしたコンテンツを掲載せず、他のウェブサイトへのリンクなどを提供することで、違法アップロードされたコンテンツに利用者を誘導するようなサイトのことを言います。リーチアプリはそのアプリ版です。
サイトの中に「今なら無料で〇〇が全巻読める!ここをクリック!」という文言があったり、匿名掲示板で「無料で映画が見れるリンクを貼るスレ」というタイトルを見かけたことがないでしょうか。
そのリンクが違法コンテンツに繋がっていた場合は、それがリーチサイトです。
従来はリーチサイト(アプリ)を取り締まるような規制がありませんでした。
しかし、今回の改正著作権法が成立したことで、リーチサイト運営者及びリーチアプリ提供者を民事でも刑事でも訴えることができるようになります。
リーチサイト(アプリ)提供者が以下の要件を満たした場合は、著作権や著作隣接権などを侵害したとみなされ、刑事・民事で訴えることが可能になります。
また、サイトやアプリを提供していなくても、リーチサイト(アプリ)にリンク情報を掲載したリンク提供者も規制の対象になります。
それぞれ刑事と民事で細かい要件が異なり、非常に複雑なため、簡略化して記載しています。
規制要件 | 規制措置 | |
---|---|---|
サイト運営者 アプリ提供者 |
リンク提供の事実を知っており、かつ、リンク先のコンテンツが侵害コンテンツであることについて故意・過失がある場合において、リンクを削除できるにも関わらず、削除せず放置すること | 【刑事罰・親告罪】 5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその併科 【民事】 差止請求・損害賠償請求が可能 |
リンク提供者 | リーチサイト・リーチアプリで、リンク情報等の提供により、侵害コンテンツの利用を容易にすること 刑事では故意犯のみ、民事ではリンク先が侵害コンテンツであることについて故意または過失がある場合 |
【刑事罰・親告罪】 3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその併科 【民事】 差止請求・損害賠償請求が可能 |
2020年2月時点の改正案では、リーチサイト(アプリ)提供に対して「非親告罪」が採用されていましたが、最終的には「親告罪」になることが決定しました。
以上が、今回成立した改正著作権法の概要です。
違法ダウンロードについては2021年1月1日、リーチサイト規制については2020年10月1日から施行される予定です。
従来は利用者が罰せられことはありませんでしたが、改正案が通れば「無料だから」「皆使っているから」と違法ダウンロードをしていると、最悪の場合逮捕されることもあります。
また、違法コンテンツを利用することで原作者にお金が入らなかったり、自分のスマホの情報が抜き取られる危険性があるといったデメリットも存在します。
正規のコンテンツを利用するように心がけましょう。
ただ、MIAU(インターネットユーザー協会)が声明を出しているように、今回の改正が国民の情報の活用に負担をかける可能性もあります。
今回成立した改正法がどのように運用されていくのか、また検討が必要となるのか、見定めていく必要があります。