ネットのプライバシー権とは?自己情報コントロール権との違いを解説
近年プライバシー権の重要性が高まり、その権利内容が拡大されてきています。そこで今回は、プライバシーの侵害になる基準や…[続きを読む]
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皆さんは、家族間でプライバシー権について話あったことはありますか? ほとんどの方が「ない」のではないでしょうか。
家族間のプライバシーは暗黙の同意でお互いを尊重しているというご家庭も多いでしょう。
しかし、「母親や旦那が勝手にスマホを見る」「勝手に部屋に入ってくる」などの行動にいらつきを感じている方もいることでしょう。
そこで今回は、家族間のプライバシー侵害について解説します。
家族間でプライバシー侵害は成立するのか、プライバシー侵害にあたるのはどのような事例か、法的措置をとることはできるのかについてご説明します。
まずは、プライバシーに関する実態調査を見た上で、家族間でプライバシー侵害が成立するのかを確認していきましょう。
個人の秘密が詰まっている場所といえば、昔なら「タンスの中」という答えがありまそうですが、現在では「スマホ・携帯の中」なのではないでしょうか?
スマホの中には、交友関係はもちろん、SNS、お気に入りのサイト、プライベートな写真、クレジットカードの情報など個人に関する様々な情報が詰まっています。
そんな中、どれくらいの割合の方が「旦那や嫁にスマホを見せても大丈夫」と答えられるのでしょうか? また、スマホのパスワードを教えている人の割合はどれくらいのなのでしょうか。
あるインターネット上の調査によると、スマホの暗証番号を家族・恋人に教えている人の割合は1割程度でした。9割の人が「教えていない」と回答したのです。やはり、スマホには恋人・家族には見られたくないもののようです。
逆に「教えている」と答えた方は、「見られても困る情報がない」「家族に操作してもらいたいときがある」など、特に問題がない、利便性などを求めての結果でした。しかし、これらは相手に見せることを同意しているのが前提の結果です。
同意していない場合、家族がスマホを見ることはプライバシー侵害といえるのでしょうか?
プライバシー権とは、私生活などの個人情報を第三者にみだりに公開されない権利のことを指します。
プライバシー権の対象となるのは、住所、名前、電話番号などの個人情報から、見た目、年収、結婚歴、犯罪歴、位置情報などまで含まれます。
実際の裁判では、次の3つの基準でプライバシー侵害が成立するのかが判断されます。
この基準に、「勝手にスマホを見る行為」をあてはめてみると、スマホには私生活上事実がたくさん含まれており(①)、一般人の価値観からみて勝手に人に知られなくない事柄であり(②)、スマホの中は通常一般公開されていません。
以上から、本人の同意なくスマホを見る行為には、プライバシー侵害が成立し得ます。そして、「家族だから許される」という法律は存在しません。そのため、家族であったとしても原則として、プライバシー侵害は成立するのです。
「子どもの安全のためにスマホをチェックしている」という事例もあるでしょう。この場合、プライバシー侵害となるのでしょうか?
この場合、結論としては、プライバシー侵害とはなりません。
民法818条では、未成年の子どもに対する親権を規定しています。親権の中には、適切な教育を行う義務や、安全を確保する義務が含まれています。
そのため、行為自体にプライバシー侵害、不正アクセス禁止法違反といえる内容が含まれている場合でも、親権の行使として違法性はないといえると考えられます。もっとも、これは未成年の子どもが居る場合の話です。成人の場合は、プライバシー侵害が原則どおり問題となると考えてください。
家族間でもプライバシー侵害が成立しうることがわかりました。では、実際の事例にあてはめて、プライバシー侵害や他の法律が問題となりうるのかを見ていきましょう。
「夫・妻の行動が怪しい…」「不倫しているかも」そう感じて勝手にスマホやLINEのメッセージをチェックするなんてことは、よく聞く話です。
このように、配偶者のスマホを勝手にチェックする行為には、具体的にどのような法律違反が成立しうるのでしょうか。
まず、先にご説明したように、家族であっても勝手にスマホをみる行為自体がプライバシー侵害です。
家族であっても、同意がなければ許されません。また、スマホにロックがかかっている場合は、これを勝手にあけてみる行為は「不正アクセス禁止法」(同法3条)により規制されます。具体的には「3年以下の懲役または100万円以下の罰金」(同法11条)に処される可能性があるでしょう。
不倫を疑ってGPSで配偶者の居場所を監視しているという方も、なかにはいらっしゃるでしょう。本人の同意がある場合は問題ないですが、同意がない場合、プライバシー侵害となるのでしょうか?
スマホのGPSで監視する場合は、勝手にスマホのパスワードを使って解除し、位置情報を知るためのアプリをダウンロードする、設定するなどの行為が必要となります。
これは不正アクセス禁止法違反となるため、「3年以下の懲役または100万円以下の罰金」(同法11条)に処される可能性があります。
また、位置情報は勝手に知られなくない事柄かつ通常は実際に知られていない事柄であり、知られたくない事柄です。そのため、プライバシー侵害も成立します。
これ以外にも、不正指令電磁的記録供用罪が問題となりえます。
※iPhoneの「デバイスを探す」で、家族間でファミリー共有して、位置情報を共有することを家族で同意しているケースは問題ありません。
勝手に自分の部屋に入り、片付けたり、浮気の証拠を捜索されたりなど、このような行為は気分の良いものではありません。
自分の部屋の中のものは、私生活上の事実といえ、勝手に人に見られたくないものです。
また、一般に自分の部屋を公開していることはまずありませんから、プライバシー侵害が成立します。
家族であっても、同意なく勝手に部屋に入り捜索などを行うのはNGです。
しかし、親が子の部屋を片付けるため、普段から掃除のためなどで勝手に部屋に入る行為を黙示的にでも許容している場合は、プライバシー侵害は成立しないといえるでしょう。
鞄のなかや財布は、個人情報が含まれており、通常他人に見られたくないものです。また、公に公開されているものではないため、プライバシー侵害となりえます。
家族であっても同意なく勝手にカバンのなかや財布を捜索する行為はNGです。
このように、家族であってもプライバシー侵害は成立します。お互いを尊重し、マナーを守るようにすることが大切です。
最後に、実際に損害賠償や刑事訴追などの法的措置をとることは可能なのかをご説明します。
プライバシー侵害の事例で見てきたように、家族間で通常行われているような行為でも、本人が不快であり、同意がない場合はプライバシー侵害となりえます。
もっとも、だからといって、刑事告訴が可能というわけではありません。
「配偶者がスマホを勝手にみる」だけでは刑事事件としての犯罪にはなりません。勝手に部屋に入る行為も同居している場合には問題となりえないでしょう。
もっとも、パスワードを勝手に解除する行為が含まれると、不正アクセス禁止法違反にはなりえます。GPSも同様です。もっとも、よほどの悪質性がない限り、立件されることはないでしょう。
プライバシーの侵害により「親や嫁に慰謝料を請求したい」と考える可能性もないわけではありません。理論的には可能ですが、民事で損害賠償を行うことはハードルが高いといえるでしょう。
先にお伝えした3要件だけでなく、侵害の目的や不利益の程度など、さまざまな事情が判断要素に含まれるため、家族の場合は「不利益の度合いが低い」として、損害賠償自体が否定されるか、数万円など少額しか認められない可能性が高いでしょう。
しかし、最近では毒親などの社会問題もあり、成人した子どもに対する過度な干渉行為も問題となっています。この場合、勝手に子どもが住む家を捜索する、GPSで居場所を把握する、頻繁に連絡をとろうとしてくる行為などで精神的苦痛を被った場合は、不法行為として証拠があれば、多額の損害賠償請求も認められる可能性も十分にあります。
家族にだって知られたくないことはあるはずです。勝手にスマホや携帯を覗き見る行為は、やはりマナー違反といえます。
家族であったとしても、お互いのプライバシーを守るように、境界線を引いておくことが需要です。
どうしても見たい場合は、家族で十分に話し合い、同意を得ることが大切です。