ネット書き込みによる偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪とは?
ネット上に何でも書いて良いというものでもありません。他人の業務を妨害すると「業務妨害罪」が成立してしまいます。今回は…[続きを読む]
ネット上では、普段おとなしい人でもつい過激な発言をしてしまうことがあります。
ときには、ストレスやふざけ半分で「爆破予告」や「殺害予告」をしてしまうケースも見られます。
ですが、もし勢いでこのような悪質な書き込みをしてしまったらどうなるのでしょうか?
「爆破予告をした犯人は逮捕されないの?」
「ノリで爆破予告してしまったけど、バレる?」
今回はそんな疑問をもっている人に向けて、ネットで犯行予告をするとどのような問題が発生するのかや、望ましい対処方法などを解説していきます。
目次
近年では、ネットを使って爆破予告や犯行予告が行われるケースが多くなっています。
とはいっても、爆破予告にあまり馴染みがない方もいらっしゃるでしょう。
まずは、これまでに発生した事件をいくつかご紹介します。
2008年、秋葉原で17人が被害を受けた無差別殺傷事件が起こりました。
実はこの事件の前、犯人は携帯電話向けの掲示板に「犯行予告」を行っていました。
事件後には、ネット上の匿名掲示板やサイトにおいて殺人予告や爆破予告をする模倣犯が相次ぎ、2週間程度の間に12人もの悪質な投稿をした者が逮捕されることとなりました。
2017年2月、大阪市の学校法人「森友学園」がネット掲示板である「2ちゃんねる」において「小学校の開設予定地を爆破する」という爆破予告を受けました。
学園は警察に被害届を提出し、その犯人は威力業務妨害の疑いで書類送検されました。
爆破予告を行った動機として、「ネット上の反応が面白くてやめられなかった」などと供述していたようです。
2017年11月、日本三景である京都の天橋立で、観光船に「爆弾をしかけた」という電話がかかってくる事件がありました。
これにより、宮津市の運航業者は6便を休航せざるを得ず、業務妨害を受けました。
この件でも、犯人は威力業務妨害の疑いで逮捕されています。
犯人は「むしゃくしゃしていたのでやった」と延べ、容疑を認めました。
また、実は同日に日本全国各地(北海道から沖縄まで)で数十件に及ぶ爆破予告の電話がかかっていました。
これにより、駅の一時閉鎖や百貨店での客の避難、フェリーの運航中止など広範囲に渡り被害が及んでいたといいます。
いずれの事件も、同じ容疑者の携帯電話からの発信であったことから、関連性が疑われています。
2020年では、7月以降教育機関への爆破予告が増えており、9月中には27件も発生したと報告されています。
それまでは中学校や高校が対象になることが多かったところ、7月からは大学に対する爆破予告が大幅に増加し、東京・静岡・福岡・長崎と全国各地に広がっています。
特に、3年前にも爆破予告があった早稲田大学に対する脅迫はニュースでも大きく報じられることになりました。
このときは「9月4日に主要建造物を爆破する」というメールが届いたため、学生らを立ち入り禁止にし、全国のキャンパスや付属校を全て閉鎖するといった対応が行われました。
犯人はまだ検挙されておらず、理由は断定できないものの、コロナによる自粛生活などの不満が影響しているのではないかと考えられています。
以上のように、意外にも身近で多くの爆破予告や犯行予告が行われているのです。
ただ、爆破予告をする犯人は「むしゃくしゃしていた」「いたずら半分」などという理由で犯行に及ぶことが多く、あまり犯行の重大性を意識していません。
実際に爆弾を仕掛ける例も少なく、単に「予告だけ」で終わる件が多いことも特徴的です。
では、実際に爆弾を仕掛けていないのに、予告をしただけでなぜこれほど問題になるのでしょうか?
爆破予告による影響を見てみましょう。
まず、爆破や犯行予告を受けた被害者は、各種の対応に追われることとなります。
たとえば、学校が爆破予告を受けたら安全が確保できるまで休講にしなければなりませんし、イベント会場ならイベントを中止して参加者を退避させなければなりません。
その日限りに影響が及ぶわけではなく、他の日に予定をずらさなければならなかったりと後処理にも労力がかかります。
また、被害者の業務が妨害される問題もあります。
爆破予告を受けると、地下鉄なら運行が停止、観光船なら欠航、学校なら休講となります。
本来なら得られるはずだった利益が得られなくなると同時に、不審物の確認や問い合わせの対応などにより通常の業務ができなくなることもあります。
もちろん、電車が動かなくなってしまえばその電車に乗って勤務先に行くはずだった会社員なども行動しにくくなってしまうので、社会全体が多からず悪影響を受けることになります。
爆破予告や犯行予告があると、警察が対応に乗り出します。
ターゲットとなった場所を閉鎖し、人の誘導を行うと同時に爆発物が置かれていないか専門の処理班を呼んで調べなければなりません。
ただの「嫌がらせ」や「悪ふざけ」であっても、警察は念入りに確認を行い、真面目に対応しなければならないのです。
本来であれば、殺人や放火など重大な事件の捜査を行って悪質な事件を阻止することができたかも知れないのに、冗談の爆破予告のために労力を割かれてはたまりません。
「このくらい大したことない」と思って投稿した爆破予告が、実際には大きな影響や営業被害を引き起こしているのです。
安易な気持ちで書き込むことは、絶対にやめましょう。
もしインターネット上で爆破予告をしてしまったら、どのような犯罪が成立する可能性があるのでしょうか。
確認してみましょう。
爆破予告・犯行予告で成立する典型的な犯罪が、威力業務妨害罪です。
「威力業務妨害罪」とは、力や威勢を示すことによって被害者の業務を妨害したときに成立する犯罪です。
「殺すぞ」「爆発するぞ」などの内容は、威勢を示して相手を威圧させていることが明らかであるため、これによって相手の業務を妨害すると威力業務妨害罪となります。
爆破予告では、対象となる施設や場所の業務だけでなく、警察の業務も問題になり得ます。
警察は、爆破予告を受けて対象周辺の警備を増員したり、周辺の人達の避難誘導を行ったりと、大変な労力を使うことになりますし、その分他の事件の捜査や警備は人手が足りなくなります。
そのため、上記で紹介した事件の多くは「威力業務妨害罪」として捜査が行われていますし、犯人が逮捕された件もあります。
威力業務妨害罪が成立すると、3年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑が科せられます。
「脅迫罪」は、被害者やその親族の生命・身体・自由・財産・名誉に対して危害を加えることを示し、相手を脅したときに成立する犯罪です。
ネット上の投稿でも、それが相手を脅す内容になっていたら、脅迫罪が成立する可能性があります。
脅迫罪の被害者になりうるのは基本的に個人であり、法人は対象になりません。
ただし、法人に対する脅迫行為であっても、それが個人(受け取った担当者や経営者など)に対する脅迫であると評価できるのであれば、脅迫罪が成立する可能性があります。
たとえば、イベント会場に爆破予告をした場合、イベント会社そのものへの脅迫罪は成立しなくても、イベントに参加する個人やイベント会社の経営者・担当者などの「個人」への脅迫罪が成立しうるということです。
脅迫罪が成立すると、2年以下の懲役または30万円以下の罰金刑が科せられます。
ネットによる爆破予告や犯行予告が、強要罪(未遂罪含む)となるケースもあります。
「強要罪」は、被害者を脅迫することにより、義務のないことを無理矢理行わせたり、権利行使を妨害したりする場合に成立する犯罪です。
つまり、ネット掲示板などに「〇〇しないと爆破するぞ」と書き込んだり「〇〇をするなら爆発物を仕掛ける」などと投稿したりして、相手に義務のないことを行わせると、強要罪となる可能性があります。
強要罪には未遂罪があるので、たとえ相手が指示に従わなかったとしても処罰される可能性があります(大審院昭和7年3月17日判決)。
被害者が法人であるときの考え方は脅迫罪と同様で、法人に対する強要行為でもそれが個人に対するものと同視できる場合には、個人に対する強要罪が成立します。
強要罪が成立すると、3年以下の懲役刑が科せられます。
上記の脅迫罪も強要罪も、親告罪(被害者本人が訴えないと成立しない犯罪)ではありません。
被害者が刑事告訴をしなくても、事件の重大性によっては警察が自ら捜査に着手する可能性があります。
ここまでは刑事罰について説明してきましたが、「民事責任」も発生することを無視してはいけません。
「民事責任」とは、損害賠償責任のことです。
先述したように、爆破予告や犯行予告で被害者に多大な損失が発生することがあります。
爆破予告などで被害が生じると民法上の不法行為が成立して、被害者から営業損失分の賠償金を請求される可能性が非常に高くなります。
そうした賠償金の額は、一般人では到底払いきれないほどの金額になることも多いです。
支払いができないなら自己破産すれば良いと思うかもしれませんが、悪質な犯罪による損害賠償債務の場合、自己破産しても免責されない可能性もあります(破産法253条1項2号、3号)。
以上のように、ネット上で爆破予告や犯行予告をすると、実際に犯罪を行わないとしてもさまざまな罪が成立する可能性があります。
では、実際にこのような投稿が警察にバレることがあるのでしょうか?
犯人が逮捕された事例から、どういった経緯で警察が動くこととなったのか確認してみましょう。
もっとも多いのは、被害者が警察に被害届を提出するパターンです。
ネット上における爆破予告が犯罪になることは世間一般に知られているので、こうした脅迫を受けると、多くの被害者はすぐに警察に申告します。
すると、警察が投稿内容を確認して捜査を開始し、いずれは犯人が特定されて逮捕に至ります。
被害者が被害届を提出しない場合でも、第三者が警察に告発するケースがあります。
親告罪ではないため、被害者本人でなくても犯罪の申告ができることになっているからです。
たとえば、2ちゃんねるや5ちゃんねるなどの匿名掲示板において、あからさまに悪質な爆破予告の投稿などが行われていたら、それを発見した他のユーザーが警察に通報する可能性があります。
近年では悪質なネット犯罪が増加しているため、警察も規制強化に努めています。
常日頃からサイバーパトロールを行い、不審な投稿があったら調査して取り締まりをしているのです。
そのため、ネット上で爆破予告や犯行予告をしていると、警察のサイバーパトロールの目にとまって逮捕につながるケースがあります。
ネット上で投稿を行うとき、たいていの人は「匿名」です。
実名を明かしていなくても警察に逮捕されることがあるのか、疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
確かに、ネット上で投稿するときには自分の個人情報を記入しなくてもできますが、そんな匿名の投稿者を特定する手続きがあるのです。
その手続きは「発信者情報開示」といい、IPアドレスなどの記録をたどり、最終的に発信者の個人情報にたどり着くことができます。
一般人でも弁護士に依頼することができますし、警察などの捜査機関であればより簡単に情報を得ることが可能です。
匿名で投稿していても、バレて逮捕される可能性が十分にあることを理解しておいてください。
それでは、もしネット上で爆破予告や犯行予告をしてしまった場合、どのような対応をする必要があるのでしょうか。
まずは、警察の捜査が始まる前に自首をしましょう。
たとえば、本来なら起訴される場合であっても、自首すれば不起訴にしてもらえることがあるなど刑事処分を軽くしてもらえる可能性があります。
不起訴処分を受ければ、刑事裁判にならず被告人として裁かれたり刑罰を科されたりすることもありません。
また、逃亡の恐れがないとして身柄拘束がされないまま捜査が進められたり、万一起訴されてしまった場合でも刑を軽くしてもらえることがあります。
以上のように、本気でなくとも軽い気持ちで投稿した爆破予告によって犯罪が成立し、多額の損害賠償請求をされる可能性があります。
予告をしないことが一番ですが、もししてしまったときには自首を考えましょう。
とはいえ、自首した方がいいと言われても心理的に抵抗がある方が多いでしょう。
「もしかして、このまま見つからないかも知れない…」という可能性に賭けたくなる気持ちもわかります。
そんなときは、刑事事件に詳しい弁護士に相談してみましょう。
そうすれば、ケースに応じた適切な対応方法をアドバイスしてくれますし、自首が必要であれば段取りをしてスムーズに進むよう手配してくれます。
また、被害者に対して謝罪し、できるだけ弁償を進めることも重要です。
刑事事件では、被害者に弁償を終えていると情状酌量により処分が軽くなるからです。
このような被害者に対する示談交渉なども、弁護士に任せておけば安心です。