削除の仮処分とは|インターネット上の名誉毀損記事を削除する
ネット上で名誉毀損、誹謗中傷の書き込みをされたら「仮処分」によって削除させることができます。裁判所を使った手続きで難…[続きを読む]
ネットを利用していると、ついついきつい表現をしすぎてトラブルになってしまうことがあります。
ネット上の投稿が「脅迫」と言われてしまったら、どのような犯罪が成立するのでしょうか?
ネット表現で脅迫罪が成立するパターンや法律、脅迫罪の刑罰、脅迫罪で刑事事件になってしまった場合の対応方法などを、押さえておきましょう。
今回は、ネット上でも問題になりやすい「脅迫罪」について、解説します。
目次
SNSやネット上で、他人に対し、脅すような言葉を書き込むと「脅迫罪」が成立する可能性があります。
脅迫罪とは「対象者本人やその親族の生命、身体、自由、名誉、財産に害悪を加えることを告知して、脅した場合に成立す犯罪」です(刑法222条)。
条文上は、以下のような表記となっています。
以下では、どのような場合に脅迫罪が成立するのか、より具体的に要件を確かめていきましょう。
脅迫罪が成立するためには「害悪の告知」が必要です。
ここで言う「告知」とは、どのような方法が含まれるか押さえておきましょう。
実は法律上、脅迫罪の害悪の告知方法について、特に制限はもうけられていません。
直接言葉で告げた場合には、当然「告知」と言えますし、手紙(脅迫状)を送付した場合にも「告知」となります。
それに加えて、ネット上の投稿でも、相手を畏怖させるに足りるものなら「告知」となります。
たとえば、相手が時々読んでいる自分のブログやSNSに「〇月〇日までに、絶対〇〇を殺す」と書いたり、相手がときおり見ている「2ちゃんねる」や「爆サイ」などのネット掲示板に「〇〇をぼこぼこにしてやる」「〇〇の家族も無事では済まさない」などと書いたりすると、相手に直接向けられたものではなくても、脅迫罪になってしまう可能性があります。
その他、LINEやメールで「秘密をばらす」「営業できなくしてやる」などの脅迫のメッセージを送った場合にも、もちろん脅迫罪となります。
法律では、脅迫の対象が限定されています。それは、以下の5つです。
生命に対する「害悪の告知」とは簡単に言うと「殺す」ということです。
例えば、「殺すぞ」と言ったり「命はないものと思え」という書き込みをしたりして、命の危険があることを示すと脅迫罪は成立します。
身体に対する害悪とは、相手を傷つけることです。
たとえば「ケガをさせるぞ」と言った場合や「覚えとけよ、ただで済むと思うなよ」等と言った場合などに脅迫罪が成立します。
自由に対する害悪とは、相手の身体を束縛することです。
たとえば「監禁するぞ」と告げたり「ここから帰れると思うなよ」「誘拐するぞ」などと言ったりネット上に投稿したりすると、脅迫罪が成立する可能性があります。
名誉に対する害悪とは、相手の名誉を毀損することです。
たとえば、相手に対して「不倫の事実をばらすぞ」「不正していることを公にするぞ」などと告げると、脅迫罪が成立する可能性があります。
この場合、公にしようとしている事実が、たとえ「真実・事実」であっても、脅迫になる可能性があるので、注意が必要です。
相手の財産に対する侵害をほのめかす場合にも、脅迫罪が成立する可能性があります。たとえば、「お前の金を全部失わせてやる」「家を燃やしてやる」「根こそぎ奪い取ってやるから、覚悟しておけ」などと書き込むと、脅迫になる可能性があります。
上記の5つ以外のものに対する脅しをしても、基本的に脅迫罪にはなりません。たとえば、単純に大声を出して驚かせただけでは脅迫罪になりません。
脅迫罪では、侵害を受ける者(侵害対象)も限定されています。
脅迫罪が成立するのは、「本人」または「親族」に対する害悪を告知したケースのみです。
たとえば、以下のような言葉を発すると、脅迫罪になる可能性があります。
それ以外の友人知人などに対する害悪の告知では、脅迫罪は成立しません。
ただし、ペットは「財産」扱いとなりますので、ペットに対する害悪の告知を行うと、「本人の財産」に対する害悪の告知となり、脅迫罪となる可能性があります。たとえば、ネット上で「お前の犬を殺すぞ」などと投稿すると、脅迫罪が成立する可能性があるということです。
ところで、脅迫罪は「相手を畏怖させるような害悪の告知」によって成立する犯罪ですが、実際に相手が「畏怖」する必要はあるのでしょうか?
たとえば、相手を脅そうと思ってメッセージを送っても、相手がおびえないこともあります。そのようなとき「脅迫罪の未遂」となるのかが問題です。
しかし結論から申し上げますと、脅迫罪には未遂罪がありません。「脅迫した」時点で「既遂」となってしまうからです。相手が実際におびえたかどうかは関係ないということです。
このように、問題の行為を行うと、当然に成立してしまうタイプの犯罪を、「抽象的危険犯」と言います。その行為自体が危険なので、行為が行われた時点で危険が発生し、罪が成立するという考え方です。
そこで、相手に対して脅迫メールを送ったり、相手のSNSに不穏な文句を書き込んだりしたとき、相手が「怖い」と思わなくても、それが客観的に人を畏怖させるような内容であれば、脅迫罪になってしまいます。
脅迫罪が成立した場合の刑罰は、以下の通りです。
これはSNSやネットの脅迫罪であっても同様です。
初犯の場合には、罰金刑が適用されることが多いです。
また、被害者が刑事告訴をしないと処罰されない犯罪のことを「親告罪」と言いますが、脅迫罪については親告罪ではありません。
そこで、被害者がたとえ刑事告訴をしなかったとしても、脅迫行為が悪質だった場合、処罰されてしまう可能性があります。
ネット上で他人に対し脅迫行為をしてしまったら、その後、どのような流れで事件となっていくのでしょうか?
ネット上で脅迫的な投稿が行われた場合、問題となりやすいのが「投稿者が特定されない」ことが多いことです。
被害者は、まずは投稿者の特定作業から進める必要があります。特定をするためには、投稿先のサイトの管理者や投稿者が契約しているプロバイダに対し「仮処分」などの手続きをしなければなりません。
ただ、極めて悪質なケースでは、すぐに警察が動いて捜査を開始し、逮捕につながるケースなどもあります。
被害者が、犯人を特定する過程でプロバイダなどに情報開示を求めると、プロバイダは、契約者(投稿者)に対し、「発信者情報開示請求照会書」という書類を送ります。
この場合の「発信者」とは、脅迫投稿をした犯人のことです。この書類は、投稿をした本人(発信者)に対し、被害者に対して発信者に関する情報を開示をして良いかどうか、意見を聞くための書類です。
このとき、開示に同意すると、プロバイダから被害者に対し、契約者の氏名や住所、メールアドレスなどが開示されてしまいます。
そこで、一般的には、投稿者は開示を拒絶・拒否することが多いです。
発信者情報開示照会書に対して開示を拒絶したとしても、数ヶ月後には情報開示されてしまう可能性があります。
犯人特定されてしまった場合、加害者は被害者側から損害賠償請求をされることが多いです。
脅迫行為は民法上の不法行為となるので、被害者は加害者に対し、精神的苦痛を理由に慰謝料を請求することができるからです。
このとき、被害者は加害者に対し「内容証明郵便」を利用して賠償金の請求書を送ってくることが多いです。
請求書が届いたときに無視していると、訴訟をされてしまうので、加害者はきちんと対応して被害者と話し合いをすすめ、できるだけ穏便に解決した方が良いでしょう。
被害者が発信者情報開示の手続きによって投稿者を特定した場合、刑事告訴をしたりして、被害届を出したりして、警察へ捜査を促すことがあります。
悪質な脅迫行為があると、実際に捜査を開始されて、加害者が警察に逮捕されてしまうことも考えられます。
またその後、送検されて身柄拘束されたり、起訴されて有罪判決を受けることにもなるでしょう。
なお、有罪判決を受けると、たとえ罰金で済んだとしても、一生消えない前科もつきます。
「たかがネット上でふざけて書き込みをしただけ被害届は出ない」などと軽く考えていると、大変な不利益を受けるおそれがあります。
ネット上での脅迫行為が問題となった場合、加害者は被害者と「示談」をすることが大切です。
示談とは、被害者と加害者が話合いをすることにより、民事的な賠償問題を解決することです。
示談ができれば、被害者が損害賠償請求訴訟(裁判)を起こすことはありませんし、不起訴になる可能性も減るでしょう。
被害者が内容証明郵便で請求書を送ってきたら、無視せずにきちんと対応して、話し合いをすすめましょう。
脅迫罪の場合の損害賠償金は「慰謝料」です。相場としては、数万円~30万円くらいです。
脅迫だけで終わった場合、被害者には実害が発生していないので、慰謝料は安くなります。
これに対し、脅迫だけで済まずに「強要罪」や「威力業務妨害罪」が成立した場合には、被害者に実害が発生する可能性が出てきます。
たとえば、被害者の権利行使を妨害したり、被害者の営業妨害を行って売り上げ低下が発生したりした場合には、そうした損失についての賠償金支払いを求められることも十分にあり得ます。
すると、数百万円単位の賠償金支払いが必要になるケースもあります。
また「脅迫罪」と似た犯罪に関しての知識を得ておくことはとても重要です。
特に、脅迫罪と強要罪は、混同されることが多いので、その違いを確認しておきましょう。
強要罪とは、相手に対して脅迫行為をしたり暴行を加えたりすることにより、義務のないことをさせたり権利行使を妨害したりしたときに成立する犯罪です。
脅迫罪との大きな違いは「義務のないことをさせる」「権利を行使させない」という結果をともなう点です。
脅迫罪の場合には、こうした結果が発生することはなく、単に脅すだけです。何かをさせようとすることもありません。
わかりにくいのが、脅迫罪と「強要未遂罪」の違いです。
強要罪には、脅迫罪と違って未遂罪があり、相手に義務のないことをさせようとしても相手が応じなかった場合には、強要未遂罪となります。
そうなると「脅迫したが、相手が何もしなかった」という点では、脅迫罪も強要未遂罪も同じです。
たとえば「土下座しないと殺すぞ」などと言ったケースがあります。この場合「土下座をしろ」というメッセージが込められており、相手が土下座をしな買った場合は、強要未遂罪になります。
これに対し、脅迫罪は、単純に「殺すぞ」と言っただけのケースです。何かをさせたり権利行使を妨害しようとしたりする意図はありません。
ここが、強要未遂罪と脅迫罪の違いです。
ネット上の投稿により、相手に対し「〇〇をしないと殺す」「〇〇をしないとケガをさせる」などと投稿して、物事を強要したり権利行使を妨害しようとしたりすると、脅迫罪ではなく強要罪や強要未遂罪が成立します。
強要未遂罪の刑罰は、3年以下の懲役刑となっており(刑法223条1項)、脅迫罪のものよりもかなり重いので、注意が必要です。
次に、脅迫罪と名誉毀損罪の関係性をご説明します。
脅迫罪は「名誉を汚すぞ」として脅す行為です。これに対し、名誉毀損罪は、「実際に」名誉を汚したときに成立する犯罪です。
つまり、時間的には脅迫罪の方が先になり、この場合、脅迫罪と名誉毀損罪は併合罪の関係になりますので、刑罰が加重されます。
具体的には、懲役刑の長期が、名誉毀損罪の3年を基準として1.5倍となるので、4.5年以下となります。
ネット上で投稿をするときには、法人に対して嫌がらせの書き込みをしてしまうこともあります。たとえば「会社を倒産させるぞ」などと書いた場合です。
脅迫罪が成立するのは、基本的に「本人」または「親族」に対する害悪の告知ですから、法人に対する害悪の告知によって、脅迫罪は成立しません。
ただし、法人への脅迫であっても、それを「本人に対する害悪の告知と同視」できるケースがあります。
たとえば、会社の代表者が「仕事ができないようにさせるぞ」と言われた場合、代表者は、自分個人に対して脅迫を受けたのと同じように捉えて畏怖(怖がること)してしまうことも十分に考えられます。
そこで、そういったケースでは、会社に対する害悪の告知を「その告知を受けた個人の生命・身体・自由・名誉・財産に対する害悪の告知」ととらえて脅迫罪が成立する余地があります。
以上のように、ネット上の投稿で、会社の経営者などに対し、「会社をつぶす」などの書き込みをすると、脅迫罪になってしまう可能性がありますので、十分注意しましょう。
また法人の場合「威力業務妨害罪」との関係についても、確かめておく必要があります。
威力業務妨害罪は、有形力の行使などの「威力」や「威勢」を示して対象者の業務を妨害した場合に成立する犯罪です。
たとえば、ネット上で「あの店に爆弾を仕掛ける」などと書き込むと、威力業務妨害が成立する可能性があります。
この場合、対象者に対する「脅迫罪も同時に成立する」ため、1つの書き込みによって2つの罪が成立します。
このような場合、2つの罪は「観念的競合」という関係となり、重い方の罪の刑罰によって裁かれることになります。
威力業務妨害罪の刑罰は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金刑となっており、脅迫罪の刑罰より重いです。そこで、脅迫行為によって相手の業務を妨害した場合には、威力業務妨害罪の罪によって裁かれることになります。
加害者が被害者から慰謝料や賠償金の請求をされたとき、適正な金額を定めて示談をするためには、弁護士に対応を依頼する必要性が高いです。
自分で交渉をすると、減額を主張することなども難しいですし、相手も感情的になって、減額や分割払いに応じにくいからです。
脅迫罪で示談を進めるときには、ネット名誉毀損や刑事事件、損害賠償手続きなどに詳しい弁護士を探して法律のアドバイス、不起訴になるためのアドバイスを受けましょう。
また、精神的苦痛を理由とした慰謝料請求の通知書が届く前に弁護士に相談をしておくことが望ましいです。
多くの方は、ネット上での発言が問題になったとき、その後どのような手続きの流れになるのかを正確に理解されていません。
また、投稿者の特定にはかなり時間がかかるので、投稿者にしてみると、具体的に被害者がどこまで手続を進めているのかも把握しにくいものです。すると、いたずらに不安を抱えて悶々とした日々を送ることになってしまいます。
また、プロバイダから発信者情報開示請求照会書が届き、どのように対応したら良いのか迷ってしまう方も多いです。
本当は同意したくないけれど、同意しなければ慰謝料が増額されるのではないかとか、被害者の感情を逆なでするのではないかと心配になって、夜も眠れなくなる方がおられます。
そのようなとき、弁護士に相談をすれば、今、実際にどの段階にあるのかということや今後の見通し、発信者情報開示請求照会書に同意すべきかどうか、同意するメリットデメリットなどについて、詳しくアドバイスを受けることができるので、安心できます。
ネット上でついつい過ぎた表現をしてしまい、相手を「脅迫」してしまうことがあります。脅迫罪が成立すると、被害者に氏名や居場所を特定されて、損害賠償金を請求されたり警察に逮捕され起訴されることもあります。
トラブルを防ぎ、なるべく穏便に収束させるためには、専門の弁護士に対応してもらう方法がベストです。
もし、ネット上の投稿でトラブルになってしまったら、ネット問題に精通している弁護士に相談するところから始めましょう。