ネットストーカーの特徴と心理。正しい対処法は?
インターネット上では人との距離感がつかみにくいため、「親しくなった」と勘違いして起こるネットストーカーが急増していま…[続きを読む]
今回はその「ストーカー規制法」についての法改正の歴史や、SNSなどを通じて近年社会問題化している「インターネットを利用したストーカー」について解説いたします。
目次
ストーカー規制法とは、つきまとい等を繰り返すストーカー行為を規制する法律で、正式名称を「ストーカー行為等の規制等に関する法律」といいます。
ストーカー規制法が成立したのは2000年で、成立から20年が経過しています。
ストーカー規制法の成立以前は、脅迫や暴行、住居侵入などが行われて初めて犯人を逮捕することが可能になるのであって、「つきまとい行為自体について刑事処罰を課すことのできる法律」はありませんでした。
そのため、被害者が「つきまとい行為」を受けて身の危険を感じて警察に相談しても、警察は動くことができなかったのです。
ストーカー規制法成立の大きなきっかけとなったのは、1999年に起こったいわゆる「桶川ストーカー殺人事件」です。
恋愛関係のもつれから被害女性が加害男性に殺害されたというもので、事件の凄惨さはもちろん、警察の対応の問題点なども数多く判明し、世間に大きな影響を与えました。
その後、法律が制定されたことで、脅迫や暴行などの実行には至らない「つきまとい行為」を行った相手に警告や禁止命令を出したり、その相手を逮捕したりできるようになったのです。
ストーカー規制法2条1項各号の条文では、「つきまとい等」とは具体的にどのようなものなのか、大きく8つに分けて示されています。
被害者の出先までついてきたり、目的地で待ち伏せをしたり、家の近くをうろついたりする行為を言います。
被害者に対して、「今帰ってきたんだね」「いつも見てるよ」などと、何らかの方法で被害者を監視していると思わせるようなことを告げたり、それを被害者の知り得る状態に置いたりするような行為を言います。
被害者が拒否しているにもかかわらず、「会ってくれ」「付き合ってくれ」「よりを戻してくれ」などとしつこく要求する行為を言います。
大声で「死ね」「馬鹿野郎」などと言ってきたり、家の前で大声を出して暴れたりするなどの行為を言います。
無言電話やしつこい電話をかけたり、被害者が拒否しているにもかかわらず、しつこくFAXやEメールを送り付けたりする行為を言います。なお、これらの手段に限定されるものではなく、ラインなどの送信やSNSやブログなどへの書き込みなども含まれます。
嫌悪感を覚えるようなものを相手に送り付ける行為を言います。
被害者の職場に誹謗のチラシを送ったり、インターネット上に中傷するような書き込みをしたりして名誉を傷つける行為を言います。
卑猥な画像や動画を送りつけるなどの行為を言います。
ストーカー行為とは、上記のつきまとい等を、同じ人に対して繰り返し行うことを言います。
最高裁の判例(最判平成17年11月25日)によると、上記の(1)から(8)のいずれかのみ、たとえば(1)だけをひたすら繰り返すことだけがストーカー行為に該当するというわけではなく、「(1)から(8)のどれかを行っている状態が反復」してさえいれば、ストーカー行為に該当するものとされています。
ストーカー規制法上、電子メールの送信をどのくらい繰り返せばストーカー行為に該当するかの「基準」は特に示されていません。
上述したとおり、ストーカー行為の要件となっているのは、「反復してつきまとい等を行うこと」です。
メールの回数や分量、内容などに鑑みて、つきまとい等が反復して行われていると言えるかどうかが総合的に判断されることになります。
ストーカー行為を行う者に対して、捜査機関や公安委員会はどのような手段を取ることができるのでしょうか。以下で詳しく解説します。
1つ目は警告(口頭警告)についてです。
つきまとい等の被害者が、警察に対して申出を行うことにより、警察は、警視総監・道府県警察本部長・警察署長のいずれかの名前で、つきまとい等を行う者に対して、そのような行為を繰り返し行わないように警告することができます。
次に禁止命令(接近禁止)についてです。
都道府県公安委員会は、つきまとい等を行っている者がいる場合に、さらにつきまとい等が継続するおそれがあると認める場合には、つきまとい等を行う者に対して、さらに継続してつきまとい等をしてはならないこと等、禁止命令(接近禁止)を出すことができます。
また刑事訴追をする場合もあります。
捜査機関(検察・警察)は、ストーカー行為を行う者について逮捕・起訴を行うことにより、刑事処罰を課すこともできます。このことについては次の項目で詳しく解説します。
ストーカー行為に対する刑事処罰について、以下で詳しく解説します。
以前まで、ストーカー行為は親告罪であり、被害者からの告訴がなければ逮捕できませんでした。
しかし2016年の改正で非親告罪となり、被害者からの告訴がなくても、ストーカー行為を行った者を警察が逮捕することができるようになりました。
ストーカー行為に対する罰則は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」となっています。
先に説明したように、被害者からストーカー行為の相談があった場合、警察はその者をすぐに逮捕するのではなく、ストーカーに対して「警告」を出すこともできます。
それでも行為がやまない場合は、都道府県公安委員会を通じて、さらに効果の強い「禁止命令」が発令されることになります。
ストーカーが禁止命令にも従わず、さらにストーカー行為を続けた場合、上記よりもさらに重い「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」という罰則が規定されています。
「禁止命令」とはもちろん「ストーカー行為を禁止する」という命令ですが、ストーカー行為の禁止だけではなく、例えば「ストーカー行為に関係する写真のデータを破棄しなさい」というように、ストーカー行為自体とは別の付随的な事柄についての命令が含まれる場合もあります。
禁止命令が出たことでストーカー行為はやめたものの、付随する命令には従わなかった、などという場合(上記の例でいうと写真のデータを破棄しなかった場合)、「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」に処せられます。
一般に、一部の重大犯罪を除いて、犯罪には公訴時効というものが定められています。
犯罪が発生した時点から起算して、公訴時効期間が経過すると、それ以降は「加害者を刑事訴追」することができなくなります。
公訴時効期間は法定刑によって定まります。ストーカー行為を含む、ストーカー規制法上で罰則が規定されている行為については、すべて公訴時効期間は「3年」となります(刑事訴訟法250条2項6号)。
今般、インターネットはストーカー被害者にとって大きな脅威になりえます。
インターネットの技術は日進月歩で、その発展に法律がなかなか追いつかない、という状況なのも事実です。いままでどのようなきっかけがあり改正されていったのか、見てみましょう。
ストーカー規制法が成立したのが2000年。その当時連絡手段としてのEメールはまだそこまで一般的ではなく、条文の中の「つきまとい行為」にはEメールの送信が想定されていませんでした。
つきまとい行為に「Eメールの連続した送信」が追加された背景には、2012年に神奈川県逗子市で起こったストーカー殺人事件があります。
この事件は被害女性が以前の交際相手にストーカー行為をされ、その果てに刺殺されるという、大変痛ましいものでした。
加害男性はそれ以前にも女性に「刺し殺す」などのメールを送ったことが理由で、脅迫罪で逮捕されているほどでした。
男性はその事件で執行猶予となったあとも、計1000通以上の嫌がらせメールを女性に送信していたことが認定されています。
女性は警察にも相談しましたが、この時点では「Eメールの連続した送信」は規制の対象外だったため、警察としても動けなかったのです。
この事件がきっかけとなり、2013年7月のストーカー規制法改正で 「Eメールの連続した送信」も「つきまとい行為」に追加された、というわけです。
コミュニケーションツールとしてEメールをしのぐ勢いで発展していったのがラインやTwitter、FacebookなどのSNSです。
しかしこれらを利用したメッセージの送信やブログなどの書き込みは「Eメールの送信」とは別の行為であるとされ、2013年の改正でも対象外でした。
このSNSへの書き込みなどが「つきまとい行為」に追加されるきっかけとなったのが、2016年5月の「小金井ストーカー殺人未遂事件」です。
この事件は芸能活動をしている女性がファンを名乗る加害男性に刃物で刺されたというものです。
男性はTwitter上で女性にメッセージを送り続けるなどしており、身の危険を感じた女性は警察に相談もしていました。
しかし逗子の事件と同様「TwitterなどのSNSへの連続した書き込み」はストーカー規制法の対象外だったため、事件が起こるまで警察は加害者を逮捕することができなかったのです。
これがきっかけで、「インスタントメッセージやSNS、ブログなどへの連続した書き込み」が2016年12月のストーカー規制法改正で「つきまとい行為」に追加されました。
また、2016年12月の法改正では、ストーカー行為の社会問題化に伴う、ストーカー行為に対する規制強化の流れを受けて、以下の内容の改正が行われました。
先に解説したように、公安委員会がストーカーに対して、ストーカー行為等に関する「禁止命令」を行うことができるようになりました。
ストーカー行為等をするおそれがある者に対して、被害者の氏名や住所等の「被害者情報の提供が禁止」されました。
被害者の安全確保・秘密の保持・個人情報の管理や、被害者をストーカーから遠ざけるための避難に関する規定が追加されました。
「加害者の更生」や「被害者の健康回復」などを行うための方法について、国や地方公共団体の責務を定めた規定が追加されました。
先に解説したように、ストーカー行為についての非親告罪化が行われ、また課される刑罰もより重いものになりました。
最近ではストーカーで逮捕される例は枚挙にいとまがないほどですが、具体的なストーカー規制法違反の逮捕例をいくつか挙げてみましょう。
2017年6月、和歌山県で、別居中の妻の車にGPS端末を取り付け、「行動を見張ったり外出先に現れたりした夫(35歳)」が逮捕されています。
2017年8月、愛知県で、被害女性に交際を要求する電子メールを送信し、「警察から警告を受けたにもかかわらず」、その後も連続してメールを送信した男性(24歳)が逮捕されています。
2017年1月、石川県で、Twitterに女子高生を「監視しているような書き込み」(「バス停で見ている」「○○の家ってここなんだ」「○○ちゃんの行動パターンを知り尽くした」など)を繰り返した男(34歳)が逮捕されました。
またTwitterでネットストーカーをしていただけでなく。実際に監視行為も行っていたとのことです。
ネットストーカーについては、下記記事が詳しいため併せてご参照ください。
ストーカーは実はとても身近に潜んでいる犯罪と言えます。
とくにインターネットを利用したコミュニケーションツールが発展し、スマートフォンなどで簡単にメッセージの送信などができる時代ですから、だれでも被害者になる可能性があるのです。
身の危険を感じたら、できるだけ早く警察へ相談すべきです。
また、万全を期すために、ストーカー規制法に詳しい弁護士へも並行して相談しておくとより安心です。その場合、できる限り証拠になるようなものをまとめておくと、相談をよりスムーズに進めることができます。
「ストーカーの被害を受けていることが恥ずかしい」そう思って相談を思いとどまってしまう人もいます。しかし何かあってからでは遅いのです。少しでも「これはストーカーでは?」と思うようなことがあったら、早めに警察やネットに強い弁護士への相談を検討しましょう。