肖像権侵害とは?事例とよくある質問から理解する肖像権の基本
ネット上に写真や動画を投稿するときには「肖像権」に配慮が必要です。今回は正確に理解されていないことも多い「肖像権」に…[続きを読む]
GoogleMapのストリートビューを利用すると、世界中の多くの場所における「現実の風景」を目の当たりにできます。
しかし家や人物などが写り込んでいるケースも多く「プライバシー権侵害となるのでは?」という疑問を持つ方も多いでしょう。実際にGoogleMapがプライバシー権侵害であると主張して裁判が起こされた事例も各国で多数存在しています。
今回はGoogleMapのストリートビューがプライバシー権侵害になるのか、ぼかしや修正依頼、削除依頼などの方法とともに検討していきましょう。
目次
GoogleMapはアメリカのGoogle社が提供している地図サービスで、世界各国のさまざまな場所の地図や店舗情報等を利用できます。
GoogleMapには「ストリートビュー」という機能があります。これは地図上の場所に現実に立っているかのような臨場感をもって周囲の様子を360度、眺めることができる機能です。
ただ、ストリートビューを初めて利用する方は、ストリートビューに自宅の様子がリアルに写っているのをみて驚くケースも多々あります。
また撮影車両が通過したときに「たまたまそこにいた人の姿」がストリートビューへ写り込んでしまうケースも少なくありません。
GoogleMapのストリートビューは旅行気分などのエンターテイメントや道順検索などの便利ツールとしても使えますが、反面「知らない間に写り込んでいる」という気味の悪さも持ち合わせている機能と言えるでしょう。
GoogleMapのストリートビューに家や姿が写り込むと、単に「気味が悪い」以上の重大なリスクが発生する可能性があります。
GoogleMapのストリートビューには、ネットを利用する人なら誰でもアクセスできます。ここに表札や姿形が写り込んでしまうと、ストーカーやDVの加害者など、知られたくない人に居場所を知られる危険性があります。
最寄り駅なども調べられると「普段通っているであろう通勤路、通学路」まで知られてしまい、待ち伏せされるリスクも高まります。
ストリートビューに家の造りの詳細が写り込むと、空き巣が侵入計画を練りやすくなります。また「お金持ちそうな家」を物色する際にもストリートビューは便利です。
空き家などがストリートビューに写り込むと「犯罪のアジトとして使おう」「ここには誰もいなさそうだから大麻を栽培してやろう」などと考える人もいますし、「放火してやろう」などと計画する人も出てきます。
GoogleMapのストリートビューに家や所有物件が写り込むと、さまざまな犯罪のターゲットにされる可能性があります。
訪問販売、外壁塗装、リフォーム詐欺、宗教勧誘などさまざまな活動を行うときにもGoogleMapのストリートビューは便利です。
家や表札が写り込むと「この場所にはこのような家がある」「この住所の人は〇〇さんという人だ」などの情報が判明するため、各種の営業や勧誘のターゲットにされやすくなります。
家や表札よりもさらに重大な問題となるのが、「人物の姿が写り込むケース」です。
一般的に自分の姿や顔が全世界にさらされるのを好む人は少ないでしょう。姿形が写り込むことによってストーカーやDV加害者、借金取りなどに居場所を知られる可能性もあります。
実際、人間には「肖像権」や「プライバシー権」が認められます。
肖像権とは「みだりに容ぼう(姿形)を撮影されたり写真・動画を公表されたりしない権利」、プライバシー権とは「みだりに私生活上の情報や個人情報を公開されない権利」です。
人が人であることによって当然認められる「人格権」の1種としてこれらの権利が保障されます。
知らない間にGoogleMapに姿や顔が写り込んで公表されると、こういった権利侵害となる可能性があります。
それではGoogleMapのストリートビューはプライバシー侵害となるのでしょうか?
確かにGoogleMapに自宅の表札の氏名や人物の顔、姿が写り込んだらプライバシー侵害といえそうです。
スイス、アメリカ、カナダなどの世界各国でも「プライバシー権侵害」を理由にGoogle社を相手取って訴訟が起こされています。その中ではストリートビューの違法性を認め、Google社へ賠償金の支払い命令を下したものもあります。
日本では、2009年に全国の自治体からGoogleMapのストリートビューへ法規制を求める要望書が提出されました。ただ総務省は研究会を開催した結果「重大な問題があるとまではいいがたい」という結論を下しています。
2010年には日本人女性が「ベランダに干していた洗濯物を勝手に撮影されてストリートビューに載せられたのはプライバシー権侵害」と主張して、Google社を相手に損害賠償請求訴訟を起こしました。
1審の福岡地方裁判所は「ストリートビューによっても女性のプライバシー権は侵害されていない」と判断し、訴えを棄却しました。それを不服として女性は福岡高等裁判所へ控訴しました。
二審の福岡高等裁判所でも、ストリートビューによる女性のプライバシー権侵害はないとして控訴を棄却しました。
理由を要約すると以下の通りです。
女性は最高裁判所に上告受理の申し立てをしましたが、2014年3月4日、最高裁判所も上告を退けました。
このように裁判の結果「ストリートビューはプライバシー権侵害をしていない」という判断が下されましたが、これは「ストリートビューによってプライバシー権侵害が起こる可能性が全くない」という意味ではありません。
裁判所はあくまで「本件ではアパートが道路の奥の方にあって洗濯物の画像が判然としないのでプライバシー権侵害にならない」としただけです。
ストリートビューへの写り込みの方法によっては、プライバシー権侵害や肖像権侵害になる可能性が充分にあります。
たとえば人物の姿形が正面から写り込んで顔がはっきりわかる場合などにはプライバシー権と肖像権の侵害となるでしょう。同じ洗濯物であっても、公道に接している建物で洗濯物の内容がはっきり写り込んでいたら判断が変わっていたかもしれません。
確かに福岡高等裁判所では結論的にプライバシー権侵害が認められませんでしたが、今後あなたの姿や住居がGoogleMapのストリートビューに写り込んだときには、権利侵害があるのではないか検討が必要です。
もしもGoogleMapに顔や家などが写り込んで削除依頼したり修正依頼をしたいときには、どのように苦情を申し出れば良いのでしょうか?
Google側では、世界中でプライバシーに関する訴訟が起こったこともあり、「権利保護の対応」を講じています。
具体的には問題のある場所について指摘があれば「ぼかしを入れる」修正対応をとっています。
ある場所にぼかしを入れてほしい場合、ストリートビューを起動してぼかしを入れたい場所の画面を表示させ、左上の「…」を選びます。
すると「ぼかしのリクエスト」を送れるので、ぼかしを入れたい対象(顔や自宅、表札など)を選択します。その際に文字を入力できる画面が現れます。
例えば「自宅」を選択して「洗濯物(パンツ・ブラジャー)が映り込んでる」と報告したり、「顔」を選択して「自分が写っているからぼかしてほしい」などと苦情を申し出ます。
最後に自分のメールアドレスを入力して「送信」すると、Google側の判断でぼかしで修正してもらえます。
*GoogleMap(ストリートビュー)
https://www.google.com/maps/
GoogleMapのストリートビューに姿や家、表札などが写り込んだら、通常は上記の方法でぼかし申請をすればぼかしを入れてもらえます。
しかし「ぼかしの修正では足りない、どうしても削除依頼したい」方もいるでしょうし、ぼかし対応に応じてもらえないケースもあるでしょう。
そういったケースでは、法律の専門家である弁護士に相談してみてください。裁判所に訴えて削除依頼できる可能性がありますし、Google社へ損害賠償請求訴訟を起こすことも可能です。
ストリートビューに写り込んでしまったとき、素人では「そもそもプライバシー権や肖像権の侵害と言えるのか?」適切に判断するのも困難です。
GoogleMapに勝手に掲載されることを拒否したい、怖い、気味が悪い、削除依頼したいと思っているなら、お早めに法律のプロである弁護士に電話相談してみましょう。