ネットにおける脅迫罪とは何か?必ず知っておくべき対処法
ネット表現で脅迫罪が成立するパターンや脅迫罪の刑罰、脅迫罪で刑事事件になってしまった場合の対応方法などを、押さえてお…[続きを読む]
5ちゃんねる(旧2ちゃんねる、2ch)には、誰でも気軽に自分の意見などを投稿することができますが、中には殺人予告や、著名人などに対する誹謗中傷や悪口など、明らかに許される限度を超えた書き込みも散見されます。
5ちゃんねるは匿名掲示板ではあるものの、こうしたひどい悪口や書き込みに対しては、被害者が被害届を出し、警察が強制捜査権を行使する場合があります。
警察が動いた場合、管理者から警察に対して情報提供が行われ、結果として書き込みをした人は高確率で特定されてしまい、逮捕されるに至ります。
では、どのような書き込みをすると、警察に逮捕されてしまう可能性があるのでしょうか?
この記事では、5ちゃんねる(旧2ちゃんねる、2ch)での殺人予告や誹謗中傷などを行った際に成立する犯罪や、逮捕の基準などについて解説します。
目次
5ちゃんねるに殺人予告や放火予告、または公共の場で爆破予告など、きわめて危険度の高い行為に及ぶことを予告する書き込みが行われることがあります。
こうした書き込みについては、実際にそのような行為が行われた場合には甚大な被害が発生することが見込まれるので、被害者が被害届を出し、警察が捜査に動く可能性はきわめて高いと言えます。
上記の殺人予告などについては、それ自体が他人の生命、身体などに対する害を加える旨の告知であり、刑法222条1項に基づき「脅迫罪」が成立します。
脅迫罪の法定刑は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金とされています。
また、いたずら目的で殺人予告などが行われた場合、警察や近隣の店舗などがその殺人予告に対応するために警備を配置したり、店を閉めたりすることを余儀なくされ、結果として警察や店舗の業務が妨害されます。
このように、うその情報を流すなどして他人の業務を妨害した場合、刑法233条に基づき「偽計業務妨害罪」が成立します。
偽計業務妨害罪の法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金とされています。
5ちゃんねるには、特に著名人などの悪口・誹謗中傷する書き込みがたびたび行われます。
こうした書き込みについて、被害者から刑事告訴が行われた場合には、名誉毀損罪または侮辱罪が成立するケースとして、警察が捜査に動く可能性があります。
5ちゃんねるに書き込まれた内容が、他人の社会的評価を低下させるような内容であり、かつその書き込みの中に事実が含まれている場合には、刑法230条1項に基づき「名誉毀損罪」が成立します。
たとえば、著名人に対して、「不倫をしている」「被差別部落の出身である」「事業で悪事を働いている」などの内容を書き込んだ場合がこれに該当します。
名誉毀損罪の法定刑は、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金とされています。
なお、名誉毀損罪については、「公共の利害に関する場合の特例」(刑法230条の2第1項)が定められています。
すなわち、以下の3要件を満たす場合には、5ちゃんねるに名誉毀損の要件に該当する書き込みをしたとしても、例外的に名誉毀損罪は成立しないことになります。
5ちゃんねるへの書き込みが他人の社会的評価を低下させるような内容であっても、その書き込みの中に事実が含まれていない場合には、名誉毀損罪ではなく、刑法231条に基づき「侮辱罪」が成立します。
たとえば、単に「あいつはバカだ」「人間のクズだ」などと、特にそれを裏付ける事実を記載せずに書き込む場合などがこれに該当します。
侮辱罪の法定刑は名誉毀損罪よりも軽く、拘留又は科料とされています。
ただし、5ちゃんねるに他人の社会的評価を低下させるような悪口・書き込みをしたとしても、それだけで直ちに警察が捜査に動くとは限りません。
その理由は、名誉毀損罪および侮辱罪が「親告罪」とされているためです。
親告罪とは、被害者の刑事告訴がなければ、最終的に検察官が加害者に対して公訴を提起(起訴)することができない犯罪を言います。
警察の捜査や、その一環としての逮捕は、最終的な公訴提起のための準備ですので、公訴提起ができない状況では、警察の捜査は開始されないということになります。
したがって、警察は原則として、被害者からの刑事告訴を待って、捜査を開始するかどうかの判断を行うことになります。
このような理由から、加害者が被害者に対して示談交渉を行い、その中で刑事告訴の取りやめや取り下げをお願いするということがしばしば行われています。
5ちゃんねるの掲示板においては、軽い気持ちで著名人の住所や電話番号などの個人情報に関する書き込みをする例がしばしば見受けられます。このような書き込みについて、何らかの犯罪は成立するのでしょうか。
まず、個人情報を書き込む行為そのものについては、個人情報保護法において、個人情報取扱事業者の行為についてのみ罰則規定が設けられています。
一方、個人情報取扱事業者ではない個人が私的に5ちゃんねるに個人情報などを書き込む行為については、特に罰則規定は設けられていません。
では、個人情報を5ちゃんねるに書き込む行為については、何らの犯罪も成立しないということになるのでしょうか。
この点については、書き込みの内容や、被害者の具体的な状況を見る必要があります。
たとえば、個人情報の書き込みによって、被害者の社会的評価が低下する結果がもたらされる場合には、名誉毀損罪が成立する可能性があります。
また、著名人の個人情報が書き込まれた場合などにおいて、その著名人の自宅にファンや野次馬が殺到してしまい、芸能活動に支障が出たなどの場合には、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。
このように、個人情報の書き込み自体を直接罰する規定がないとしても、具体的な状況次第で、何らかの刑法上の犯罪が成立する可能性があります。
また、刑事上の責任とは別に、個人情報が流出したことによって被害者が何らかの損害を被った場合、書き込みを行った者は「民事上の損害賠償責任を負担する」ことになります。
上記に説明した各犯罪のうちいずれかが成立すると疑われる場合に、初めて警察は捜査を開始することになります。
しかし、警察が捜査を開始する場合であっても、すぐに犯人と疑われる人を逮捕するわけではありません。
警察が罪を犯したと疑われる者を逮捕するには、裁判所の発する逮捕令状が必要です。
逮捕令状の発行が認められるには、①逮捕の理由と②逮捕の必要性がともに認められることが必要です。
逮捕の理由とは、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法199条1項本文)をいいます。
つまり、5ちゃんねるへの書き込みのケースで言えば、書き込みの内容が犯罪に該当するものであり、かつ逮捕しようとする者がその書き込みを行ったことがかなりの高確率で言えるということが必要になります。
逆に、書き込みを行った疑いはあると言えるものの、警察としてその確信が持てる段階にはまだないという状況では、警察が逮捕に踏み切る可能性は低いと言えます。
逮捕の理由が認められても、明らかに逮捕の必要性がないと認められる場合には、逮捕令状の発行は認められません。
逮捕の必要性がない場合とは、被疑者に逃亡のおそれがなく、かつ、罪証を隠滅するおそれがない場合などを言います(刑事訴訟規則143条の3参照)。
5ちゃんねるの書き込みに関しては、web上に書き込みの証拠が残り、完全に削除することは不可能なので、罪証隠滅のおそれはそもそも小さいということが言えます。
そうだとすれば、逃亡のおそれがあると言えるかどうかが、逮捕の必要性が認められるかどうかの主な判断ポイントとなります。
逃亡のおそれがないと言える場合はごく例外的ですが、たとえば被疑者の体が不自由だったり、家族と同居していて精神的に逃亡することが難しいと思われたりするような状況では、逃亡のおそれが否定される場合もあります。
30万円以下の罰金、拘留または科料に当たる軽微な罪については、住居不定または出頭拒否が逮捕令状発行の要件とされており(刑事訴訟法199条1項但し書き)、通常の場合よりもさらに要件が厳しくなっています。
上記で説明した犯罪の中では、侮辱罪がこれに該当します。
よって、侮辱罪に当たるような書き込みについては、書き込んだ人が逮捕される可能性は低いと言えます。
被疑者が逮捕されない場合には、在宅での捜査が行われることになります。
警察は被疑者に対して出頭要請を行い、被疑者がこれに任意に応じて出頭し、取り調べを受けることになります。
上記で説明したことのまとめも兼ねて、おかしな書き込みをした人が逮捕されない理由について解説します。
犯罪の成立には、刑法に定められている犯罪の構成要件を厳密にすべてみたす必要があります。
上記で説明した犯罪のいずれの構成要件にも該当しないと考えられる場合には、警察が書き込んだ人を逮捕することはできません。
名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪、つまり被害者の刑事告訴がないと、被疑者に対して公訴を提起することができません。
したがって、これらの犯罪のみが問題になる場合は、被害者の刑事告訴がない限り、警察が書き込んだ人を逮捕することはありません。
書き込んだ人について、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があると認められない限り、逮捕の理由が否定され、逮捕令状が発行されません。
したがって、捜査機関が犯罪事実についての確証を持っていない場合には、警察が書き込んだ人を逮捕する可能性は低いと言えます。
罪証隠滅・逃亡のおそれがともに認められない場合は、逮捕の必要性が否定され、逮捕令状が発行されません。このような場合には、警察が書き込んだ人を逮捕することはできません。
軽微な犯罪については、逮捕令状の発行要件が厳格化されますし、また、捜査機関が逮捕の必要性が低いと判断して、逮捕を断念する場合もあります。
したがって、書き込みが軽微な犯罪に該当するにとどまる場合は、書き込んだ人が逮捕される可能性は低いと言えます。
軽い気持ちで過激な内容の書き込みを行った結果、それが犯罪に該当し、警察に逮捕されてしまったという事態になってはとんでもないことです。
正しい法律の知識とインターネット・リテラシーを備えて、良識を持って5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)などのインターネット掲示板を利用しましょう。
なお、もしもすでに犯罪予告等を行ってしまった方は下記の記事も併せてご参照ください。